JRグループの研究開発部門を担う(財)鉄道総合技術研究所(JR総研)は、東京都国分寺市の敷地内で、水素を燃料として走行する「燃料電池鉄道」の実用化に向けた構内試験運転を行っている。JR総研にとって日本国有鉄道(国鉄)分割民営化以降、初めての新型車両開発となる燃料電池鉄道は、中学校で学ぶ「水の電気分解」の逆の原理を応用した燃料電池に、空気中の酸素を取り込んで水素と化学反応させて生じるエネルギーを、インバータ(電力変換装置)を介して動力台車に供給する。走行中に無害な水を出すのみで温室効果ガス(二酸化炭素)や大気汚染物質を全く排気しない“究極のエコ・トレイン”である。カナダで鉱山用機関車に先駆けて導入した事例があるが、旅客列車では世界初となる。
燃料電池システムの構成図

<出所>JR総研
JR総研が試作した燃料電池鉄道の外観(下図)は、車体にJR西日本の223系、台車にJR東日本のE231系を転用した東西折衷車両の「クヤR291系」で普段見慣れた通勤用電車のようだが、床下に最大350気圧の高圧水素タンク、室内に100kW級の燃料電池及びインバータ等を積んで試験路線を走る。既に2両編成で時速100kmを出せる運行能力を持ち、2010年代前半の実用化に向けた準備が着々と進められている。日本全国の鉄道路線網約2万5千kmのうち4割は、非電化区間で環境負荷の大きいディーゼルカー(原油を精製した軽油を燃料とした気動車両)が使用されており、クリーンな燃料電池鉄道がディーゼルカーに代替すれば架線のない地域でも鉄道の環境性能を大幅に高めることができ、火力発電(石油・石炭など化石燃料)で得た電力の消費を削減し、災害等による変電所・送電線のトラブルや停電で立ち往生する心配もなく、赤字ローカル線の救世主になり得るが、現状の難点は、通常の列車に比べ車両価格が相場の1両1億円より2倍程度高いことである。しかしながら、燃料電池鉄道は、燃料電池自動車と比べると搭載するスペースに余裕があり、充填所となる水素ステーションを車庫や主要駅に確保できればインフラストラクチャー(社会資本)整備も容易など本格普及に向け有利な点もある。
燃料電池鉄道(試作車両)の外観と構成図


<出所>JR総研
自律分散型の燃料電池鉄道を導入することに伴い架線設備が不要となることから、騒音の発生源であるパンタグラフ(架線から電気を取り込む集電装置)や架線を支える電柱が消え、レールの上空を有効活用でき、地上設備のスリム化と景観の向上にも寄与する。また、リチウムイオンバッテリーなど大容量の蓄電池とハイブリッド(混成)化することで、力行時に燃料電池と蓄電池の両方から電力供給し、一方、ブレーキ時に発生する運動エネルギーを蓄電池に回収・再利用し、「電力リサイクル車両」となってエネルギー効率を高め省エネルギーにも繋がる。公共性が高く料金体系も複雑であるため鉄道の運賃を値上げしづらいJRグループにとって、一両当たりのエネルギーを減らせれば鉄道全体に掛かる動力費も節約でき、原油価格が高騰しても変動額が小さくなるので安定した経営を実現できるだろう。人と環境に優しい鉄道を目指し、技術革新によって“ポスト・リニアモーターカー(磁気浮上式鉄道)”の呼び声も高い燃料電池鉄道がより速く、より安全に、より乗り心地良く快適に、エコノミーでエコロジーな未来の公共交通機関となることに期待したい。
【補足】エネルギー効率=(力行エネルギー+補機エネルギー?バッテリー放電エネルギー)/水素エネルギー×100%
燃料電池鉄道の営業時イメージ


<出所>上図:JR総研、下図:JR東日本
電力リサイクル車両の原理

<出所>JR総研
【参考】「衆ノ雑感」で取り上げた過去の関連記事
・高速道路の無料化 http://yamada-shuzo.blog.drecom.jp/archive/161
・持続可能な交通政策 http://yamada-shuzo.blog.drecom.jp/archive/58
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