ロシアが200海里の排他的経済水域(EEZ)を越えるオホーツク海中央部について、その区域が自国の大陸棚であると主張する調査資料を作成し、2009年内にも国連に提出する方針を固めた。「衆ノ雑感」で何度か取り上げてきた東シナ海での天然ガス田開発でも紹介したとおり、中国も東シナ海で日本側への大陸棚延長を主張しているほか、北極海や南極海等でも沿岸国が同様の動きを始めており、国連海洋法条約上の「大陸棚自然延長論」を援用し、大陸棚にある資源獲得を巡る競争が世界各地で激しさを増してきた。

EEZは、領海の基線からその外側200海里(約370km)の線までの海域である。一方、大陸棚は、原則として領海の基線から200海里であるが、地理的条件(堆積岩の厚さ)等によって、国連海洋法条約第76条の規定に従い最大350海里まで延長することができる。申し立てる沿岸国は、国連大陸棚限界委員会(CLCS:Commission on the Limits of the Continental Shelf)に調査資料を提出し、勧告を受けなければならない。認められれば公海の海底や地下にある資源の探査・開発の主権的権利を行使できる。
【参考】「大陸棚の延長とは何か?」海洋政策研究財団 http://www.sof.or.jp/tairikudana/
ロシア天然資源環境省によれば大陸棚延長申請の対象となる区域は、オホーツク海中央部に位置する斜線のエリア(下図)で、面積が四国地方の約3倍に相当する5万6400km2に及ぶ。もともと2001年にオホーツク海の大陸棚領有をCLCSに申請していたが、北部については、調査データの不備を理由に却下され、より精緻な根拠に基づく追加情報提供を求められており、南部については、境界画定に関する日本との協議を勧告されていた。このほど地震波の利用や海底泥土の採掘といった方法で大規模調査を終え、その結果、オホーツク海中央部の地質は、オホーツク=チュコト火山帯と同様の構造で、ロシア極東沿岸からオホーツク海南部に至るまで深淵が存在しないことが分かり、対象区域がロシアの大陸棚の一部であることを証明できたという。外交ルートで日本側に通告し、国内手続きを経て早ければ2009年内に再申請する。ロシアがオホーツク海の大陸棚延長に積極的な理由としては、埋蔵量不明であるものの大陸棚地下に賦存する石油・天然ガスなど化石燃料をはじめ、非在来型天然ガス資源であるメタンハイドレート、海底に棲息するエビ・カニなど甲殻類や貝類等を対象(魚類は含まず)とした水産物及び金・銀・銅・鉛・亜鉛・レアメタル(希少金属)など熱水鉱床の資源確保がある。

<出所>日本経済新聞社
ロシア天然資源環境省は、北極海でも大陸棚延長の調査を2010年に本格化し、CLCSに申請する予定を明らかにしており、大陸棚自然延長論は、関係国の新たな火種となり始めている。以前「衆ノ雑感」北極海での石油・天然ガス田開発でも紹介したが、2007年8月にロシアが北極点下の海底に潜水艇でチタン製のロシア国旗を立て、ロシアに属する大陸棚が北極点付近まで延びていると主張したことで一躍注目を集めた。これに対し、米国やカナダ、ノルウェー・デンマークの北欧諸国が反発、米国とカナダは、合同で独自の調査を開始している。南極海でも英国が南極で領有を主張している地域からの大陸棚延長を虎視眈々と狙っており、これにアルゼンチンやチリなど南米諸国が強く反発している。

<写真提供>AFP通信
ロシアが北極点下の海底にロシア国旗を立て大陸棚延長を主張し、物議を醸した。
ロシア天然資源環境省は、オホーツク海南部に位置する北方領土や千島列島周辺海域が今回の申請に含まれていないことから日本との境界画定に抵触しないと説明したうえで、政治的な意図は全くないとの立場を強調した。しかしながら、旧ソ連時代に行われていたこれら海域の調査を再開すべきとの意見もロシア国内で出始めており、国際社会の資源獲得競争が激化するなかで、今回申請が見送られたオホーツク海南部にもロシアが関心を向けるのは必至な情勢といえ、南下政策を目論むロシアが大陸棚延長の範囲を将来的に拡大し、日本と利害が対立する恐れがある。よって日本は、国益を毀損されかねないロシア側の傍若無人な攻勢に備え、拱手傍観することなく毅然とした態度で臨むため、“友愛”外交を掲げている鳩山政権が対ロ協調路線の見直しに迫られる可能性も払拭できない。
