2009年11月初旬、政府税制調査会(2009年9月の閣議決定を経て内閣府に設置)で2010年度の税制改正要望に向けたヒアリングを実施し、焦点となっている地球温暖化対策税(環境税)の導入を巡り、関係各省の思惑が交錯していることが浮き彫りになった。
環境省は、2010年度から原油・石炭・LNG(液化天然ガス)など原則すべての化石燃料を対象に課税する環境税を要望、税収は一般財源化し、一部を地球温暖化対策の技術開発や森林整備・保全に充当することで、2兆円規模の税収を見込んでいる。景気停滞下の増税は非現実的として新税の導入に慎重であった財務省も、企業収益の悪化で税収が低迷していることから、一転して環境税の導入に前向きである。一方、税制改正要望を公募した際、環境税の導入に対する産業界の強い反発を受けた経済産業省は、地球温暖化に係る国際交渉の動向を見極め、家計(特に低所得者層)・企業の負担など国民経済や国内産業の国際競争力に与える影響等の観点から検討を行うという慎重な立場を崩しておらず、環境税創設に向けた着地点を見出せていない。

<出所>環境省
環境税は、最上流課税(化石燃料の輸入時点又は採取場からの採取時点での課税)、上流課税(化石燃料の製造場からの出荷時点での課税)及び下流課税(化石燃料の消費者への供給時点での課税)の3つに分けられるが、最終的に化石燃料由来の製品が消費者まで届けば価格転嫁されて国民負担となる。
民主党政権となり、鳩山由紀夫内閣総理大臣が「2020年までに温室効果ガス排出量の1990年比25%削減を目指す」と表明し、環境税を導入する千載一遇の好機が到来した。ところが、民主党がマニフェスト(政権公約)で掲げている道路特定財源(暫定税率)の廃止や高速道路の無料化が地球温暖化対策に逆行するほか、暫定税率を廃止することで最大2.5兆円の税収減が想定されており、政策の矛盾が露呈している。しかも、環境税の導入に積極的な筈の民主党政権下で暫定税率の廃止から一定期間を置いて環境税を導入する案が浮上し、2010年4月以降、暫定税率の廃止でガソリン価格の値下げ効果(減税)を国民にアピールして同年7月の第22回参議院議員通常選挙に臨み、その後で環境税の導入(増税)に踏み切ろうとする悠長な発想と先送りの姿勢が窺える愚策ではなかろうか。そして何よりも暫定税率の廃止でガソリンの消費が刺激され、代替策である環境税も同時に導入されない訳であるから二酸化炭素排出量の増加が懸念される。
<出所>地球温暖化対策税(環境省案)資料に基づき筆者作成
暫定税率の廃止に伴う地方財源の減収分(約8千億円)の穴埋め策を巡っては、税収の落ち込みにより国税を確保したい財務省と、地方税を確保したい総務省との間で軋轢が生じている。環境・経済産業両省の対立に加え、本来、政府税制調査会を調整する立場にある財務・総務両省の対立も激しくなって議論は混迷の度を深めている。
そこで、まず徹底的な歳出削減や税体系全体の方向性を明確にしたうえで、運輸部門の地球温暖化対策と地方税収確保の観点から暫定税率を廃止せずにピグー税という形で維持する、あるいは暫定税率の廃止と環境税の導入を峻別せずにパッケージ化し、暫定税率の廃止後に間髪入れず環境税を導入するほうが理に適っているように感じる。そもそも欧州諸国を中心に導入済みである環境税を日本が追随して導入するべきか否か(二重課税を回避する観点から石油石炭税や電源開発促進税など現行税制との整合性を検証)、導入するならば税収中立的な使途が相応しく(地球温暖化対策費のほか消費税率の引き上げ幅を圧縮、年金保険料を抑制、所得税・法人税を軽減等)、逆進性を如何に是正し(低所得者、寒冷地・僻地の居住者、輸出産業及び中小企業への減免措置等)、どれくらいの税率設定が妥当であるか(石炭>石油>天然ガスという燃焼時の炭素含有量に比例した課税等)、鉄鋼・非鉄金属・化学・セメントなどエネルギー多消費産業の生産拠点の海外移転に伴う炭素リーケージ(国内の温室効果ガス排出量が減っても、エネルギー効率の低い国外に流出するため地球全体としては減らず却って増えてしまう現象)及び国内製造工場閉鎖といった産業の空洞化をどのように防ぐか等、既存のエネルギー関連諸税のグリーン(環境配慮)化を鑑みて産官学や納税者を巻き込んだ多面的な議論を進め、幅広い合意形成に努めていくことが希求される。
<出所>環境省
1990年、世界で初めてフィンランドにおいて、いわゆる炭素税が導入され、その後、スウェーデン・ノルウェー・デンマークといった北欧諸国、オランダや英国、ドイツ、イタリア、フランス等でも導入されている。これら欧州諸国では、それぞれの実情に即した「二重の配当(環境税の税収に応じて他の税を軽減することで経済全体の効率を高めるシステム)」と呼ばれる様々な課税方式で環境税創設・改組に至っている。
【補足】石油石炭税は、経済産業省及び環境省の共管であり実質的に環境税化されている。また、電源開発促進税は、販売電力に課税されている。
